予測不可能な決定系

決定論的なのに予測が不可能……つまり, そういうことだよ

群の発見 #6

1月24日のまとめ.
テキストのp.17下段からp.21問1.7の直前まで.


前回までの話より,対応するシンメトリー群が異なるので正∞角形は円と(群論的に)異なる.
対応するシンメトリー群G_{\infty}を具体的に幾何学的な図形のシンメトリー群として表すのは難しいが,次のように考えることが出来る.


加法群Zに対してZ上の変換A', B' を次のように定義する.

A^{\prime}:z \mapsto z+1

B^{\prime}:z \mapsto -z

A', B' は関数なので本来A'(z), B'(z)と書くほうが普通だが,ここでは置換の表記に慣れるためにもz^{A^{\prime}}=z+1, z^{B^{\prime}}=-zと書く.

A' の逆写像(A^{\prime})^{-1}z^{(A^{\prime})^{-1}}=z-1で定義され,B^{\prime 2}は恒等写像 I に等しい.
また,z^{B^{\prime}A^{\prime}}=(-z)^{A^{\prime}}=-z+1=-(z-1)=z^{(A^{\prime})^{-1}B^{\prime}}より{B^{\prime}A^{\prime}}=(A^{\prime})^{-1}B^{\prime}である.
よって,G をA', B' から生成される群とすると

G=\langle A^{\prime}, B^{\prime} | B^{\prime 2}=I, {B^{\prime}A^{\prime}}=(A^{\prime})^{-1}B^{\prime} \rangle

となる.
これは正∞角形のシンメトリー群G_{\infty}と元の呼び方が違うだけで群として全く同じものである.


今までのシンメトリー群は具体的に幾何学的な図形(正n角形など)に対して作用していたが,群G_{\infty}は加法群Zに作用する群と考えることが出来る.
すなわち,これは群が作用する数学的な対象として図形以外のものの例となっている.
GとG_{\infty}が群として同じと述べたが,これを数学的にしっかり定義する.

準同型と同型
群G とG' に対し,G からG' への写像f を考える.このとき,任意のg, h \in Gに対して,f(gh)=f(g)f(h)が成り立つとき,f をG からG' への準同型写像という.さらにf が1対1で上への写像のとき,f を同型写像といい,G とG' は同型であるという.これをG \simeq G^{\prime}と書く.*1

この意味でG_{\infty}とG は同型である.

1.2 集合のシンメトリー --- 対称群,交代群

§1.1では巡回群,2面体群,加法群Z, R,乗法群\mathbf{Q}^{\times}, \mathbf{C}^{\times}を学んだ.この節ではn次の対称群と交代群を学ぶ.


n個の玉の集合に対して,並べ替えを考える.
玉の並べ替えは玉に数字を振って各玉を区別をしなければ見た目には全くわからないので,並べ替えはn個の玉の集合のシンメトリーである.
このシンメトリーの数はn個の玉の並べ替えの数だけあるので n! 個だけある.
n個の玉のシンメトリー全体から成る群をn次の対称群(symmetric group)といい,S_{n}と書く.
各シンメトリーを区別するために玉に番号を振り,\Omega = \{1, 2, \cdots , n \}とする.
Ωの元は数字である必要がなく,n個の異なる元であれば何でもよいので,以降Ωの元を文字と呼ぶ.
玉の並べ替えを文字の並べ替えと考え,さらにそれをΩからΩへの1対1の写像と考える.

置換群とはなんだろう

一般に,集合Ωに対して,Ω上の1対1の変換をΩの上の置換という.*2
ここでは主にΩが有限集合のときを扱う.
Ωの上の置換全体から成る集合S_{\Omega}に対して,その元σを\Omega = \{1, 2, \cdots , n\}1^{\sigma}=i_{1}, 2^{\sigma}=i_{2}, \cdots , n^{\sigma}=i_{n}のとき,

 \left( \begin{array} 1 & 2 & \cdots & n \\ i_{1} & i_{2} & \cdots & i_{n} \end{array} \right)

と書く.
例えば,
 \left( \begin{array} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 3 & 5 & 4 & 1 & 2 \end{array} \right)

と書くと,これは1→3→4→1,2→5→2 の置換を表している.これをもっと簡略して
\sigma = (1 3 4)(2 5)

と書くことも出来る.
一般に\tau = (i_{1} i_{2} \cdots i_{k})(k項)巡回置換といい,
\tau : i_{1} \to i_{2} \to \cdots \to i_{k} \to i_{1}

を表す.ここで書かれていない文字は固定されるものとする.
上記のσ のように任意の置換は互いに共通文字のない巡回置換の積として表示できることが知られている.そのように表記すると逆元は
\sigma^{-1}=(4 3 1)(5 2)

と文字列を逆に並べればよい.また,(4 3 1)=(3 1 4)=(1 4 3)のように巡回置換の表記は一意的でないことに注意する.
τ=(1 3 5 4)として合成στ=(1 3 4)(2 5)(1 3 5 4)を考える.ここでは左から順番に作用することに注意し,各文字の写り先を計算すると
\sigma \tau : 1 \to 5 \to 2 \to 4 \to 3 \to 1

となる.すなわち,
 \sigma \tau = (1 3 4)(2 5)(1 3 5 4) = (1 5 2 4 3)

である.
ここまでで置換,巡回置換の定義とその逆元,さらに置換の積を扱った.

*1:テキストでは同型の記号を \cong を使っているが,\cong が使えなかったので \simeq で代用した.個人的には\simeqの方が好き.あと \mapsto も出なかった

*2:置換の定義は本によっては1対1の上への写像としてる

群の発見 #5

1月17日のまとめ.
テキストのp15問1.6からp17中段まで.

問1.6

nを与えられた自然数とし,Gを1のn乗根全体からなるCの部分集合とする.このときGは位数nの巡回群であることを示せ.
また,d \geq 1をnの任意の約数とすると,Gは1のd乗根を全て含むことを示せ.
とくに,1の原始d乗根を含む.

[証明]
a = e^{\frac{2\pi i}{n} = \cos \frac{2\pi}{n} + i\sin \frac{2\pi}{n}とおくと,G=\{a^{k} | k=0, 1, \cdots, n-1 \}と書ける.0以上n-1以下の任意のi, j に対してa^{i} \neq a^{j}であり,積に関して結合律も成り立つ.1=a^{0}単位元となる.任意のa^{k}に対して,(a^{-k})^{n} = 1よりa^{-k} \in G
また,a^{n} = 1である.よってGは位数n の巡回群である.

dはnの約数なので,ある自然数f を用いて n = df と書ける.
b=a^{f}とおくと,b^{d}=a^{df}=a^{n}=1よりbの位数はdである.
b=a^{f}=e^{\frac{2\pi i}{n}f}=e^{\frac{2\pi i}{d}
より,1のd乗根全体は,\{b^{k} | k=0, 1, \cdots, d-1 \}と書ける.
0以上d-1以下の任意のkについて,
(b^{k})^{n}=a^{fkn} = 1なので,b^{k} \in Gである.
よって,Gは1のd乗根を全て含む.
1の原始d乗根全体は,1のd乗根全体の部分集合なのでGに含まれる.[証明終]

2面体群とは何だろう…

巡回群Gの任意の元が元aのベキで表示出来るとき,G=\langle a \rangleと書き,aをGの生成元(generator)という.また,Gの位数がnならばG= \langle a|a^{n} = 1 \rangle と書くことが出来る.

一般に,G= \langle a, b|a^{n}=b^{2}=1, ba=a^{-1}b \rangleとなる群を位数2nの2面体群(dihedral group)という.

上記の定義によると正n角形のシンメトリー群は2面体群であるが,2面体群の定義を正n角形のシンメトリー群とするものもある.

一般に群Gの任意の元が元a, b, c, … を用いて表示出来るとき,Gは{a, b, c, …}で生成されるといい,a, b, c, …を生成元という.

また,群Gの任意の元a, bに対して ab=ba となるとき,群Gをアーベル群(abelian group)または可換群(commutative group)という.アーベル群ではない群を非アーベル群または非可換群という.


ここで本来の目的を思い出すと,それは対称性があるものに対して,対称性の大きさや複雑さを計る尺度を手に入れることだった.
正n角形の平面内のシンメトリー群をH_{n},空間内のシンメトリー群をG_{n}とする.
nを大きくすることで群の位数が大きくなり,正n角形の対称性が大きくなっていくことが量的に表されている.
また,|H_{2n}|=|G_{n}|より,この2つの群は量的には同じだが,一方は巡回群,もう一方は2面体群であり構造が異なることがわかる.可換性も異なる.この違いをまとめると次の表のようになる.

位数 構造 可換性
H_{2n} 2n 巡回群 アーベル群
G_{n} 2n 2面体群 非アーベル群

このように,シンメトリー群を考えることで対称性の大きさや複雑さを計ることができる.

正n角形のnを∞にしたら…

正n角形に対してn → ∞ とし,仮に正∞角形があるとすると対応するシンメトリー群は

G_{\infty} = \langle A, B | B^{2} = 1, BA=A^{-1}B \rangle

となるはず.この群では元Aの位数は無限,群の位数も無限(可算)である.

直感的には正∞角形は円と等しい気がするが,円に対するシンメトリー群は次のようになる.

G_{circle}=\langle R(\theta),T|0 \leq \theta < 2 \pi , T^{2}=I, TR(\theta)=R(-\theta)T \rangle

ここでR(θ)は円の中心を通る垂直線を回転軸とするθ(ラジアン)の回転,Tはあるひとつの裏返し操作である.
この群の位数は無限(非可算)なので正∞角形のそれと異なる.

つまり,群論的には正∞角形と円は異なるのである!

可算と非可算

以下はテキストにはないが,可算集合非可算集合の間に1:1の対応が付けられないことの証明である.

そもそも可算集合とは自然数全体の集合Nとの間に1:1対応があること,非可算集合とは実数全体の集合Rとの間に1:1対応があることである.

ここではNと開区間(0,1)の間に1:1対応が付けられないことを示す.

区間(0,1)の元x をx=0.a_{1}a_{2} \cdots a_{n} \cdots , (a_{i} \in \{0, 1, \cdots ,9\})と書くことにする.
f:\mathbf{N} \to (0,1)を任意の写像とする.
V(f)=\{f(1),f(2), \cdots , f(n), \cdots \}の各元を
f(1)=0.a^{1}_{1}a^{1}_{2}a^{1}_{3} \cdots a^{1}_{n} \cdots
f(2)=0.a^{2}_{1}a^{2}_{2}a^{2}_{3} \cdots a^{2}_{n} \cdots

f(n)=0.a^{n}_{1}a^{n}_{2}a^{n}_{3} \cdots a^{n}_{n} \cdots

とする.
任意の自然数n に対して

と定義し,\beta = 0.b_{1}b_{2} \cdots b_{n} \cdotsとする.
このとき\beta \in (0,1)だが任意のn についてβの小数第n位b_{n}とf(n)の小数第n位a_{n}は異なる.よって,任意のn について\beta \neq f(n) すなわち \beta \notin V(f)
従ってf は全射とならないのでNと開区間(0,1)の間に1:1対応が付けられない.

群の発見 #4

1月10日のまとめ.
テキストのp13からp15問1.6の前まで.

正n角形の(3次元空間内の)シンメトリー群をGとする.
正n角形の各頂点に1〜nと番号を付け,Aを360゜/nの回転とし,Bを頂点1と中心を通る直線に対して180゜の回転(裏返し)のシンメトリーとする.

このとき,Gは
G = \{I, A, \cdots, A^{n-1}, B, AB, A^{2}B, \cdots, A^{n-1}B \}
と書ける.

[証明]
問1.1より,|G| = 2n である.
また,\{ I, A, \cdots, A^{n-1} \}の各元がそれぞれ異なることは明らかである.

  1. \{B, AB, A^{2}B, \cdots, A^{n-1}B \}の各元はそれぞれ異なる
  2. \{I, A, \cdots, A^{n-1}\} \cap \{B, AB, A^{2}B, \cdots, A^{n-1}B \} = \emptyset

を言えればよい.

1.を言うためにには次の簡約律が言えればよい.

問1.3(簡約律)
a, b, cを群の元とするとき,ab=ac 又は ba=ca ならば b=c である.

[問1.3の証明]
ab=ac のとき,両辺にaの逆元を左から掛けると b=c となる. ba=ca のときは右から掛けるとよい.[問1.3の証明終]


問1.3より\{B, AB, A^{2}B, \cdots, A^{n-1}B \}の任意の2つの元A^iB, A^jB (0 \leq i,j \leq n-1, i \neq j)に対し,A^iB = A^jBならばA^i = A^jとなる.i \neq jよりこれはAの定義に矛盾する.よって1.が成り立つ.

問1.4
群Gは単位元eをただ1つ持つ.Gの各元aは逆元a'をただ1つ持つ.a'の逆元はaである.

[問1.4の証明]
群Gの演算を * とする.
e'をGのもう一つの単位元とすると,e' = e*e' = e となる.一つ目の等号はeが単位元であること,二つ目の等号はe'が単位元であることからいえる.
a''をaに対するもう一つの逆元とすると,a'' = a''*e = a''*(a*a') = (a''*a)*a' = e*a' = a'となる.一つ目,二つ目,四つ目,五つ目の等号はeが単位元であること,三つ目の等号は結合律からいえる.[問1.4の証明終]


2.を示す.
共通部分が空でないとすると,A^{i} = A^{j}Bとなる,0 \leq i,j \leq n-1が存在する.
この等式にA^{j}の逆元を左から掛けるとA^{i-j} = Bとなる(問1.4よりA^{j}*A^{-j}の結果が一意に定まる).
これはBがAのベキで表せることを意味する.一方,Bは頂点1を固定する裏返しなのでB=A^{i-j}=Iとなる.これはBの定義に矛盾する.
よって共通部分は空である.

1., 2.より
G = \{I, A, \cdots, A^{n-1}, B, AB, A^{2}B, \cdots, A^{n-1}B \}
がいえた.


正n角形のシンメトリー群Gは次の等式を満たす.

問1.5
BA=A^{n-1}B=A^{-1}B

[証明]
i を正n角形の任意の頂点とし,シンメトリーによる写り先を考えると,
 i^{A}=i+1, i^{A^{-1}}=i-1, i^{B}=n+2-i
となる.
よって,i^{BA}=(n+2-i)^{A}=n+3-i, i^{A^{-1}B}=(i-1)^{B}=n+3-iとなる.
任意の頂点の写り先が等しく,かつA^{n-1}=A^{-1}なのでBA=A^{n-1}B=A^{-1}Bとなる.[証明終]


一般の群Gの元aに対して,a^{m}=1となるような最小の正整数mを元aの位数という.
そのようなmが存在しないとき,aの位数は無限である,またはaを無限位数の元という.

「位数」という言葉には,“群の”位数と“元の”位数の2種類あるので注意.

aの全てのベキからなる集合は群Gの巡回部分群であり,それを\langle a \rangleと書く.
このとき,群\langle a \rangleの位数が元aの位数となる.
aの位数が無限のとき\langle a \rangleは無限巡回群となる.


乗法群\mathbf{C}^{\times}の有限位数の元を1のベキ根という.
1のベキ根ζ の位数がnのとき,ζ を1の原始n乗根という.
1の原始n乗根とは,n乗して始めて1になる数のことである.

例:
1の3乗根:\{1, \omega, \omega^{2} \}, (\omega = \frac{-1+\sqrt{-3}}{2})
1の原始3乗根:\{\omega, \omega^{2} \}
1の4乗根:\{ 1, -1, i, -i \}, (i^{2}=-1)
1の原始4乗根:\{ i, -i \}

群の発見 #3

12月20日(2010年最後)のmath@sapporoで進んだところのまとめ.
今回はp13の上段まで.

巡回群とはなんだろう

巡回群
群Gの任意の元が一つの元の冪で書くことができるとき,群Gを巡回群(cyclic group)という.

テキストでは巡回群の定義にGが集合であるか群であるかが述べられていないが,一般的に巡回群は群に対して定義される(と思う),テキストでも群として扱っているので上記のようにした.
いつも名が体を表しているとは限らないので注意.

位数
群Gの元の個数のことを群Gの位数(order)といい,|G|と書く.

例:
正n角形の平面内のシンメトリー群\{ I, A, A^{2}, \cdots, A^{n-1} \}(ただしAは360゜/nの回転)は位数nの巡回群である.
A^{n} = Iとなり,巡回して単位元Iに戻ってくる.また,A^{-1} = A^{n-1}である.


位数が有限の群を有限群(finite group)という.
巡回群が常に有限群とは限らない.
例:
\{ 2^{i} | i \in \mathbf{Z} \}は乗法群\mathbf{Q}^{\times}の部分集合であり,元の個数は有限ではない.
また,\mathbf{Q}^{\times}と同じ演算で群となり(単位元は1,2^{i}に対する逆元は2^{-i}),一つの元の冪で全ての元を書けるので巡回群である.
しかし,0以外の任意のi について2^{i} \neq 1なので巡回して1に戻ってくることはない.(名が体を表しているとは限らない)


\{ 2^{i} | i \in \mathbf{Z} \}のように,ある群Gの部分集合HがGの演算でまた群となるとき,HをGの部分群(subgroup)という.\{ 2^{i} | i \in \mathbf{Z} \}\mathbf{Q}^{\times}の部分群である.


i=\sqrt{-1}とする.
\{1, -1, i, -i\}は乗法群\mathbf{C}^{\times}の位数4の部分群であり,i^{0}=1, i^{1}=i, i^{2}=-1, i^{3}=-iより,全ての元がi の冪で書けるので巡回群である.
また,\omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}とおくと\omega^{3}=1より,\{1, \omega, \omega^{2}\}は位数3の\mathbf{C}^{\times}の巡回部分群である.

一般にx^{n}=1の解を1のn乗根といい,x=e^{\frac{2\pi ik}{n}}(0 \leq k \leq n-1)と書ける.
これらは全部でn個あり群を成す.すなわち,

\{\frac{2\pi ik}{n}|0 \leq k \leq n-1\}

\mathbf{C}^{\times}の位数nの巡回部分群となる.(証明は問1.6でやる)


正n角形の平面内のシンメトリー全体は位数nの巡回群であり,また1のn乗根全体も位数nの巡回群である.
これらは集合としては異なるが,群として同じ構造を持っており,互いに同型であるという.(同型の定義はp18で.次回(1/10)あたりかな)

シンメトリーの積の表記法についての注意

シンメトリーを文字の置き換えと思ったときに,2つ以上のシンメトリーを続けて行うときはその順番が問題になる.
例えば,正n角形の各頂点に1〜nと文字を対応させ,x, yをシンメトリーとする.
ここでxとyの合成を考えた時,一般的にxとyのどちらを先に作用させるかで最終的な行き先が変わってしまう.
そこで,ある文字i をxでn個の文字のどれかに写し,その後にyでさらに別の文字に写すことを考える.この操作をi^{xy}=(i^{x})^{y}と書くことにする.
i がxで他の頂点に移る操作をi^{x}の代わりにx(i)と書くとi^{xy}=(i^{x})^{y}(yx)(i)=y(x(i))と書くことになり,xの前にyを書くことを気持ち悪がる人もいるようなので,テキストではi^{x}を採用している.

群の発見 #2

今回はp.5〜p.11まで進んだので,そこまでのまとめ.

シンメトリーを数学の言葉で…

シンメトリーを文字を使って表す.

正3角形を正の向きに120゜回転させるシンメトリーをAとすると,240゜回転させるシンメトリーはAを2回繰り返したものなので,これをA\cdot A = A^2と書くことにする.
同様に360゜の回転はA^3となるが,これは単位シンメトリーと等しい.
単位シンメトリーをIと書く.すなわち,A^3 = Iである.

以上の記号を使うと正3角形の(平面内の)シンメトリーの集合は,

\{ I, A, A^2 \}

と書ける.


2つのシンメトリーを続けて行うことをシンメトリーの合成,又は積と呼ぶ.
1つの回転の逆回転もシンメトリーーであり,これを逆元と呼ぶ.
ある回転とその逆元の合成は単位シンメトリーになる.


少し一般的に正n角形を考え,正n角形の平面内のシンメトリー全部の集合をHとする.
正n角形の中心に関して \frac{360\textdegree }{n} の回転をAとすると,

 H = \{ I, A, A^{2}, \cdots , A^{n-1} \}

である.
正n角形に対しても,任意の二つのシンメトリーの合成はシンメトリーであり,あるシンメトリーの逆元もやはりシンメトリーである.

次に正n角形の(3次元)空間内のシンメトリー全部の集合をGとする.
今度は平面内の操作に加えて図形の裏返しを考える必要がある.

<ちょっと考えよう 問1.1>

 \sout{|G| = 2n} Gの元の個数が2nであることを示せ.
まだ|・|の定義をしてませんでした.


 H \subset Gであり,平面内の回転に関する操作はHで尽くしているので裏返しを考える.
裏返し,すなわち一つの頂点とその図形の中心を通る直線を軸とした180゜の回転はnが奇数の場合はn個ある.
nが偶数の時はそのような回転はn/2個であるが,各辺の中点とその対辺の中点を結んだ直線に関する裏返しもまたシンメトリーになり,そのような裏返しがn/2個ある.
よって,nの偶奇に関わらず正n角形のシンメトリーは少なくとも2n個ある.

あとは,これ以外のシンメトリーは存在しないことを示せばよい.
例えば,ある裏返しと回転の積や,2つの異なる裏返しの積が上記の2n個のシンメトリーのいずれかであることを言えればよいが,テキストのヒントに従ってあるシンメトリーが,

  • (i) 正n角形のいかなる頂点も辺の上の点も固定しない
  • (ii) ある頂点または辺上の点を固定する

の場合に分けて考える.*1

ここで,正n角形の各頂点に1〜nと名前を付けシンメトリーを区別すると,シンメトリーは頂点の移動で区別出来たことを思い出す.
すると,いかなるシンメトリーを施してもある頂点の移動先を決めるとそこから左回り(または右回り)に順番に残りの頂点の移動先も決まってしまう(nの次は1に戻る).

例えば上の例では正6角形をあるシンメトリーで動かし,頂点1が元の4の場所に移動したとすると,残りの2〜6は1から左,又は右回りに決まってしまう.
これを踏まえて(i)を考えると,ある頂点vが残りのn-1個の点のいずれかに移るシンメトリーは全部で2(n-1)個考えられる.しかし,これらは頂点の名前が元と逆順の時はある点が固定されてしまい(すなわち(ii)の場合になり),元と同じ時は一つの回転のシンメトリーで書けてしまう.
また,(ii)の時は頂点を固定するときはその頂点を通る直線で,辺上の(中)点を固定するときはその中点と対辺の中点を通る直線に関する裏返しのシンメトリーになる.
よって,正n角形のシンメトリーは回転又は裏返しによる2n個である.


このようなGを正n角形のシンメトリー群という.

群の定義

ここで改めて群を定義しなおす.

群(group)
ある集合Gが群であるとは,以下の性質を満たすときをいう.
  • (1) Gの任意の元x, yについてその積(合成)が定義されて,xyもその元となる.また,任意のGの元x, y, zに対して結合律(xy)z=x(yz)を満たす.
  • (2) あるGの元eが存在し,任意のGの元xに対してxe=ex=xとなる.この元eを単位元といい,通常1と書く.
  • (3) 任意のGの元xに対して,あるGの元x'が存在してxx'=x'x=eとなる.このx'をxの逆元といい,通常 x^{-1}と書く.


群の一つの元とは,正n角形の一つのシンメトリーのようなもの.
1つのものを知るには多くのもの全体を群として考えたほうがよい.

シンメトリー群Gは上記の(1), (2), (3)をいずれも満たしており,群である.

また,整数全体の集合Zは通常の和に対して群である.
単位元が0で,xの逆元は-xである.これをZの加法群という.
有理数全体Q,実数全体R複素数全体Cもやはり加法群である.
Q, R, Cから0を除いた集合をそれぞれ \mathbf{Q} ^{\times}, \mathbf{R} ^{\times}, \mathbf{C} ^{\times} と書く.これらは乗法に関して群になっており,それぞれQ, R, Cの乗法群という.

ちょっと考えよう 問1.2

Z, Q, R, Cは引き算に関して群にならないことを示せ. \mathbf{Q} ^{\times}, \mathbf{R} ^{\times}, \mathbf{C} ^{\times} は割り算に関して群にならないことを示せ.


いずれの集合も引き算に関しては結合律を満たさない(例えば, 1-(2-3) \neq (1-2)-3).
また,割り算に関しては単位元をもたない.(例えば, 3 \div 1 = 3だが 1 \div 3 \neq 3).

*1:点の名前のつけ方を踏まえたうえで,ある頂点は1〜nのn通りの名前の場合があり,その各々について残りの頂点が2通りあると考えてもいいと思う

第1章 シンメトリー

自然や文化には対称なものが多い.
対象計(対称性の大きさ,複雑さを計るもの)として群を考える.

1.1 正多角形のシンメトリー ---巡回群,2面体群

一般に正n角形では\frac{360\textdegree}{n}の倍数の回転はシンメトリーである.
空間内で考えると,中心と一つの頂点を通る直線を軸とした180゜回転もシンメトリーとなる.

ここでいうシンメトリーとは,途中経過を含めた変換の意味ではなく,動かした後の結果のみを考える.
例えば,反時計周り(正の向き)に120゜回転させることと,時計回りに240゜回転させることは同じとみなす.

定義(単位シンメトリー)
0゜の回転,すなわち何も動かさないのも回転と考え,これを単位シンメトリー,又は恒等シンメトリーと呼ぶ.

すなわち,どんな非対称な図形でも少なくとも一つシンメトリーを持つ.

正3角形の頂点に{1, 2, 3}と番号を付けてシンメトリーを区別すると,各シンメトリーは最終的に頂点{1, 2, 3}がどこへ移ったかを見ればよい.

(平面内の)正3角形のシンメトリーは\frac{360\textdegree}{3} =120\textdegree の倍数の回転,すなわち120゜,240゜,360゜(0゜)の回転で全てである.

ただし,特に断らない限り度数は反時計周りで数えるものとする.
一度そう決めてしまったものは仕方がない.いろいろ疑問も起こるが「ともかく群論を学ぼう」(テキストp.4)

本書の読み方(p.vii 〜 p.x)

正多角形や正多面体が対称な図形であることは直感的にすぐわかる.
では,それらの図形は「どの程度」対称なのだろうか.

例えば,正6角形と正4面体はどちらがどれだけ対称性が大きいだろうか.
このような疑問に答えるために対称性になんらかの尺度を導入したい.

定義(シンメトリー)
図形を動かして,元通りの位置に重ねあわす動かし方を,シンメトリーと呼ぶ.

例えば,正6角形を60゜回転させるのはシンメトリーである.
正方形よりも正6角形のほうがシンメトリーを多く持っている.
では,各図形に対してシンメトリーの個数が対称性の尺度になるだろうか.

実は,正6角形と正4面体はどちらもシンメトリーを12個持っているが,正4面体のシンメトリー全部の集合のほうが正6角形のそれより構造が複雑であることがわかる.
すなわち,図形のシンメトリーの個数だけでは対称性の尺度として不十分である.

定義(群)
ある数学的対象のシンメトリー全部の集合を群と呼ぶ.

対称性の尺度として群というものを考えていく.
一つ一つのシンメトリーの性質を調べるのではなく,シンメトリー全部を一つの構造物(すなわち群)として考えることが重要である.

第1章では,具体的な図形に対して群を考え,その概念を理解する.また,群論の基本的な定理であるラグランジュの定理,コーシーの定理を学ぶ.(証明は第4章)
第2章では,群という概念がどのようにして起こってきたかを歴史的に見ていく.代数方程式の解法,根の置き換えという考えから,方程式の根の間のシンメトリーを考える.
第3章,第4章では5次方程式の解法の不可能性やガロア群について見る.
テキストは第6章まであるが「ともかく本文を読みはじめてほしい」(テキストp.x)