予測不可能な決定系

決定論的なのに予測が不可能……つまり, そういうことだよ

群の発見 #5

1月17日のまとめ.
テキストのp15問1.6からp17中段まで.

問1.6

nを与えられた自然数とし,Gを1のn乗根全体からなるCの部分集合とする.このときGは位数nの巡回群であることを示せ.
また,d \geq 1をnの任意の約数とすると,Gは1のd乗根を全て含むことを示せ.
とくに,1の原始d乗根を含む.

[証明]
a = e^{\frac{2\pi i}{n} = \cos \frac{2\pi}{n} + i\sin \frac{2\pi}{n}とおくと,G=\{a^{k} | k=0, 1, \cdots, n-1 \}と書ける.0以上n-1以下の任意のi, j に対してa^{i} \neq a^{j}であり,積に関して結合律も成り立つ.1=a^{0}単位元となる.任意のa^{k}に対して,(a^{-k})^{n} = 1よりa^{-k} \in G
また,a^{n} = 1である.よってGは位数n の巡回群である.

dはnの約数なので,ある自然数f を用いて n = df と書ける.
b=a^{f}とおくと,b^{d}=a^{df}=a^{n}=1よりbの位数はdである.
b=a^{f}=e^{\frac{2\pi i}{n}f}=e^{\frac{2\pi i}{d}
より,1のd乗根全体は,\{b^{k} | k=0, 1, \cdots, d-1 \}と書ける.
0以上d-1以下の任意のkについて,
(b^{k})^{n}=a^{fkn} = 1なので,b^{k} \in Gである.
よって,Gは1のd乗根を全て含む.
1の原始d乗根全体は,1のd乗根全体の部分集合なのでGに含まれる.[証明終]

2面体群とは何だろう…

巡回群Gの任意の元が元aのベキで表示出来るとき,G=\langle a \rangleと書き,aをGの生成元(generator)という.また,Gの位数がnならばG= \langle a|a^{n} = 1 \rangle と書くことが出来る.

一般に,G= \langle a, b|a^{n}=b^{2}=1, ba=a^{-1}b \rangleとなる群を位数2nの2面体群(dihedral group)という.

上記の定義によると正n角形のシンメトリー群は2面体群であるが,2面体群の定義を正n角形のシンメトリー群とするものもある.

一般に群Gの任意の元が元a, b, c, … を用いて表示出来るとき,Gは{a, b, c, …}で生成されるといい,a, b, c, …を生成元という.

また,群Gの任意の元a, bに対して ab=ba となるとき,群Gをアーベル群(abelian group)または可換群(commutative group)という.アーベル群ではない群を非アーベル群または非可換群という.


ここで本来の目的を思い出すと,それは対称性があるものに対して,対称性の大きさや複雑さを計る尺度を手に入れることだった.
正n角形の平面内のシンメトリー群をH_{n},空間内のシンメトリー群をG_{n}とする.
nを大きくすることで群の位数が大きくなり,正n角形の対称性が大きくなっていくことが量的に表されている.
また,|H_{2n}|=|G_{n}|より,この2つの群は量的には同じだが,一方は巡回群,もう一方は2面体群であり構造が異なることがわかる.可換性も異なる.この違いをまとめると次の表のようになる.

位数 構造 可換性
H_{2n} 2n 巡回群 アーベル群
G_{n} 2n 2面体群 非アーベル群

このように,シンメトリー群を考えることで対称性の大きさや複雑さを計ることができる.

正n角形のnを∞にしたら…

正n角形に対してn → ∞ とし,仮に正∞角形があるとすると対応するシンメトリー群は

G_{\infty} = \langle A, B | B^{2} = 1, BA=A^{-1}B \rangle

となるはず.この群では元Aの位数は無限,群の位数も無限(可算)である.

直感的には正∞角形は円と等しい気がするが,円に対するシンメトリー群は次のようになる.

G_{circle}=\langle R(\theta),T|0 \leq \theta < 2 \pi , T^{2}=I, TR(\theta)=R(-\theta)T \rangle

ここでR(θ)は円の中心を通る垂直線を回転軸とするθ(ラジアン)の回転,Tはあるひとつの裏返し操作である.
この群の位数は無限(非可算)なので正∞角形のそれと異なる.

つまり,群論的には正∞角形と円は異なるのである!

可算と非可算

以下はテキストにはないが,可算集合非可算集合の間に1:1の対応が付けられないことの証明である.

そもそも可算集合とは自然数全体の集合Nとの間に1:1対応があること,非可算集合とは実数全体の集合Rとの間に1:1対応があることである.

ここではNと開区間(0,1)の間に1:1対応が付けられないことを示す.

区間(0,1)の元x をx=0.a_{1}a_{2} \cdots a_{n} \cdots , (a_{i} \in \{0, 1, \cdots ,9\})と書くことにする.
f:\mathbf{N} \to (0,1)を任意の写像とする.
V(f)=\{f(1),f(2), \cdots , f(n), \cdots \}の各元を
f(1)=0.a^{1}_{1}a^{1}_{2}a^{1}_{3} \cdots a^{1}_{n} \cdots
f(2)=0.a^{2}_{1}a^{2}_{2}a^{2}_{3} \cdots a^{2}_{n} \cdots

f(n)=0.a^{n}_{1}a^{n}_{2}a^{n}_{3} \cdots a^{n}_{n} \cdots

とする.
任意の自然数n に対して

と定義し,\beta = 0.b_{1}b_{2} \cdots b_{n} \cdotsとする.
このとき\beta \in (0,1)だが任意のn についてβの小数第n位b_{n}とf(n)の小数第n位a_{n}は異なる.よって,任意のn について\beta \neq f(n) すなわち \beta \notin V(f)
従ってf は全射とならないのでNと開区間(0,1)の間に1:1対応が付けられない.