予測不可能な決定系

決定論的なのに予測が不可能……つまり, そういうことだよ

群の発見 #6

1月24日のまとめ.
テキストのp.17下段からp.21問1.7の直前まで.


前回までの話より,対応するシンメトリー群が異なるので正∞角形は円と(群論的に)異なる.
対応するシンメトリー群G_{\infty}を具体的に幾何学的な図形のシンメトリー群として表すのは難しいが,次のように考えることが出来る.


加法群Zに対してZ上の変換A', B' を次のように定義する.

A^{\prime}:z \mapsto z+1

B^{\prime}:z \mapsto -z

A', B' は関数なので本来A'(z), B'(z)と書くほうが普通だが,ここでは置換の表記に慣れるためにもz^{A^{\prime}}=z+1, z^{B^{\prime}}=-zと書く.

A' の逆写像(A^{\prime})^{-1}z^{(A^{\prime})^{-1}}=z-1で定義され,B^{\prime 2}は恒等写像 I に等しい.
また,z^{B^{\prime}A^{\prime}}=(-z)^{A^{\prime}}=-z+1=-(z-1)=z^{(A^{\prime})^{-1}B^{\prime}}より{B^{\prime}A^{\prime}}=(A^{\prime})^{-1}B^{\prime}である.
よって,G をA', B' から生成される群とすると

G=\langle A^{\prime}, B^{\prime} | B^{\prime 2}=I, {B^{\prime}A^{\prime}}=(A^{\prime})^{-1}B^{\prime} \rangle

となる.
これは正∞角形のシンメトリー群G_{\infty}と元の呼び方が違うだけで群として全く同じものである.


今までのシンメトリー群は具体的に幾何学的な図形(正n角形など)に対して作用していたが,群G_{\infty}は加法群Zに作用する群と考えることが出来る.
すなわち,これは群が作用する数学的な対象として図形以外のものの例となっている.
GとG_{\infty}が群として同じと述べたが,これを数学的にしっかり定義する.

準同型と同型
群G とG' に対し,G からG' への写像f を考える.このとき,任意のg, h \in Gに対して,f(gh)=f(g)f(h)が成り立つとき,f をG からG' への準同型写像という.さらにf が1対1で上への写像のとき,f を同型写像といい,G とG' は同型であるという.これをG \simeq G^{\prime}と書く.*1

この意味でG_{\infty}とG は同型である.

1.2 集合のシンメトリー --- 対称群,交代群

§1.1では巡回群,2面体群,加法群Z, R,乗法群\mathbf{Q}^{\times}, \mathbf{C}^{\times}を学んだ.この節ではn次の対称群と交代群を学ぶ.


n個の玉の集合に対して,並べ替えを考える.
玉の並べ替えは玉に数字を振って各玉を区別をしなければ見た目には全くわからないので,並べ替えはn個の玉の集合のシンメトリーである.
このシンメトリーの数はn個の玉の並べ替えの数だけあるので n! 個だけある.
n個の玉のシンメトリー全体から成る群をn次の対称群(symmetric group)といい,S_{n}と書く.
各シンメトリーを区別するために玉に番号を振り,\Omega = \{1, 2, \cdots , n \}とする.
Ωの元は数字である必要がなく,n個の異なる元であれば何でもよいので,以降Ωの元を文字と呼ぶ.
玉の並べ替えを文字の並べ替えと考え,さらにそれをΩからΩへの1対1の写像と考える.

置換群とはなんだろう

一般に,集合Ωに対して,Ω上の1対1の変換をΩの上の置換という.*2
ここでは主にΩが有限集合のときを扱う.
Ωの上の置換全体から成る集合S_{\Omega}に対して,その元σを\Omega = \{1, 2, \cdots , n\}1^{\sigma}=i_{1}, 2^{\sigma}=i_{2}, \cdots , n^{\sigma}=i_{n}のとき,

 \left( \begin{array} 1 & 2 & \cdots & n \\ i_{1} & i_{2} & \cdots & i_{n} \end{array} \right)

と書く.
例えば,
 \left( \begin{array} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 3 & 5 & 4 & 1 & 2 \end{array} \right)

と書くと,これは1→3→4→1,2→5→2 の置換を表している.これをもっと簡略して
\sigma = (1 3 4)(2 5)

と書くことも出来る.
一般に\tau = (i_{1} i_{2} \cdots i_{k})(k項)巡回置換といい,
\tau : i_{1} \to i_{2} \to \cdots \to i_{k} \to i_{1}

を表す.ここで書かれていない文字は固定されるものとする.
上記のσ のように任意の置換は互いに共通文字のない巡回置換の積として表示できることが知られている.そのように表記すると逆元は
\sigma^{-1}=(4 3 1)(5 2)

と文字列を逆に並べればよい.また,(4 3 1)=(3 1 4)=(1 4 3)のように巡回置換の表記は一意的でないことに注意する.
τ=(1 3 5 4)として合成στ=(1 3 4)(2 5)(1 3 5 4)を考える.ここでは左から順番に作用することに注意し,各文字の写り先を計算すると
\sigma \tau : 1 \to 5 \to 2 \to 4 \to 3 \to 1

となる.すなわち,
 \sigma \tau = (1 3 4)(2 5)(1 3 5 4) = (1 5 2 4 3)

である.
ここまでで置換,巡回置換の定義とその逆元,さらに置換の積を扱った.

*1:テキストでは同型の記号を \cong を使っているが,\cong が使えなかったので \simeq で代用した.個人的には\simeqの方が好き.あと \mapsto も出なかった

*2:置換の定義は本によっては1対1の上への写像としてる